「あのチーム長、プレイヤーとしては優秀なんだけど、チームのマネジメントがねぇ。なんとかならない?」
「あのマネジャー、成果は必ず出すんだけどメンバーがつぶれていくんだよね、どうしてなんだろ?」
「あの課長を昇進させたいんですが下が育ってなくて動かしにくいんです。どうしたらよいですかね?」
こんな相談を受けたことはないでしょうか。組織の成果を左右するマネジメント力は、働く環境や働き方が劇的に変わる中で再び大きな関心を集めています。
それだけではありません。ひとつの会社に勤め続けることが当たり前ではなくなっている人的資本経営時代において、マネジメント力は成果だけでなく、人材の採用と定着にも極めて大きな影響を与えます。人的資本経営時代においては、マネジメント力に問題がある組織は成果が出せないだけでなく、組織の存続すら危うくなります。
しかし悩ましいのはマネジメント力を強化しようと考えても、ヒト・モノ・カネ・情報と対象範囲が広いことです。仕事の悩みは人間関係が8割といわれるほど、マネジメントの課題の多くはヒトに関連しています。しかし多岐に亘るマネジメント力の強化をヒトの領域に絞り込んだとしても、取り組むべき育成テーマ数多くあります。
加えて、モノ・カネ・情報に比べて変化に時間がかかるヒトのマネジメントは常に後手後手に回る傾向があり、先手先手で取り組むための長期的なキャリア指針が必要です。育成対象者の長期的なキャリア指針と短期的な育成テーマを絞り込むことができないと、組織にビジョンを示しましょう、相手の話が終わるまで聞きましょう、自分の気持ちが高ぶったら6秒数えましょう、のような漠然としたアドバイスに留まってしまいます。
更にヒトのマネジメント力の強化を難しくしている原因は、育成に取り組む主体者の欠如にあります。これまでの終身雇用・年功序列を前提とした人材育成において、人事担当者が関与していたのは会社全体の異動であり、ひとり一人の育成テーマまで関与することはできていませんでした。また異動の人事権を与えられていない上長は、人材育成は人事担当者の責任であり、与えられた人材を活かすところからが管理職の責任という認識になる傾向がありました。本人にしてもキャリアの希望を人事担当者や上長に伝えても真剣に取り合われることはないため、自らの育成に主体性を発揮することはありませんでした。結果的に、人事担当者・上長・そして本人のいずれも育成に主体的に取り組んでいないという状況となっていたのではないでしょぅか。
そのため、人的資本経営時代のヒトのマネジメント力強化における人事担当者と管理職、そして本人にとっての最大のチャレンジは、マネジメント力の強化につながる長期的なキャリア指針と短期的な育成テーマについて、共通の枠組みを通じて三人がそれぞれの立場から主体性を発揮して会話することにあります。人的資本経営時代では人材が利益を生み出す資産としてではなく、企業価値の源泉となる資本として重要視されています。そのため人事担当者・上長・本人が主体性を発揮しキャリア指針と育成テーマを選定する力は、企業価値を生み出す源泉そのものといっても過言ではありません。
ヒトのマネジメント力の長期的な強化にむけてキャリア指針を選定するためにグローバルで最も広く活用されている枠組みは、価値タイプ、フロント・ミドル・バックのロールタイプ、そしてチャレンジ経験の考え方です。
またヒトのマネジメント力の短期的な強化にむけて育成テーマを選定する上では、コンピテンシー、中でも「EQコンピテンシー」がプレイヤーからマネジメント、エグゼクティブまでグローバルで広く活用されている考え方です。
そこで本講座では、長期的なキャリア指針と短期的な育成テーマを選定する上で必要な人材育成スキルをあなたの職場の状況に応じて応用できるように、24のケーススタディーを通じて実践的に解説していきます。
ケーススタディーは、異なるシナリオを繰り返し繰り返し検討することで、職場で実践的に枠組みを使いこなすスキルを身に着けていただくことを目的としています。
ヒトのマネジメント力強化に取り組む人事担当者や上長にとって、キャリア指針と育成テーマの枠組みを使いこなすスキルは様々な育成対象者に応用することができ、長く使い続けられる定番的なスキルです。人的資本経営時代に欠くことのできないヒトのマネジメント力を高める人材育成スキルとして、あなたのお役に立てばうれしい限りです。