コーポレート・ガバナンス・コードに対応した。指名委員会を立ち上げた。CXO要件も定義した。サクセッションプランもできた。サクセッサー向けの幹部研修も実施した。個人別の開発計画も作成した。人的資本開示にも着手した。それでも経営人材のパイプラインが一向に拡充しない。タレントレビューをしても毎年同じ結果になる。しかし幹部研修の対象者は一巡してもう次はいない。あなたの会社でこうしたことは起こっていませんか?
もし起こっているとすれば、それは経営人材を育成するために適切なタイミングで適切なアプローチにより「ひとり一人と向き合う」ということが足りてないからです。選抜しただけでは人は成長しません、立場は人をつくりません、優秀な人でも勝手に育ちません。
経営人材を育成するために適切なタイミングで適切なアプローチにより「ひとり一人に向き合う」ことが必要なのは、管理職から経営職へのジャンプの難しさが一般職から管理職へのジャンプの難しさの比ではなく、育成の課題がひとり一人異なるからです。そしてESG、ステークホルダー資本主義、人的資本経営と経営職への期待が高まっているため、そのジャンプの難しも益々高まっています。
経営人材の育成がひとり一人に向き合うことなく表面的に留まっていると、優秀な人材ほどそのことを敏感に察知します。そして以前とは異なり「育ててくれた恩は感じるがうちの会社にいてもこれ以上伸びないので」と組織に見切りをつけて去っていくようになっています。そして優秀な人材が抜け出すと、その次には優秀な次世代の人材も流出するという悪循環に陥りかねません。
しかし会社もひとり一人に向き合おうとしていないわけでは決してありません。むしろひとり一人と向き合う大切さを理解し、社長や社外取締役が育成の対象者ひとり一人と丁寧に会話しているケースも多くみられます。それでも対象者からすると「向き合ってもらえている」感がないようなのです。
わたしも管理職育成で経験を積んだあと、経営人材育成に関わるようになってすぐに、管理職育成では通用するスキルが、経営人材育成では通用しない場合があることがわかりました。しかも育成の必要性が高そうな対象者ほど、ひとり一人に向き合おうとしても「向き合えない」のです。
もしあなたにもそんな経験があれば、なぜひとり一人に向き合おうとしているのに向き合えないのか、理由を考えたことはありますか?
かなりの期間、わたしはその理由がわかりませんでした。しかしわかればその理由は決めて単純なことでした。それは「ヒトは複雑な存在である」ということです。ひとり一人に向き合うことが大切だと思うあまり、対象者を「一人のヒト」として単純に考え過ぎていたことに気付きました。
そこで「一人の中に複数のヒトが存在している」と敢えて考えてみることにしました。そうした考え方で経営人材の育成に関わり、一人のヒトの中に「コンピテンシー」「ポテンシャル」「やる気の源泉」の3人がいると想定し、育成課題に応じたアプローチで向き合うことで「ひとり一人と向き合っている感」をもってもらえることがわかりました。
そこで本講座では、経営人材育成のためにひとり一人に向き合い個の強化ができる「コンピテンシー開発」「ポテンシャル開発」「やる気の源泉開発」の3つのアプローチを紹介します。
「コンピテンシー開発」と「ポテンシャル開発」はすでに定番として確立しているアプローチです。「やる気の源泉開発」については定番として確立しているアプローチは私の知っている限りありません。しかし、日本企業における経営人材育成が待ったなしの状況の中、経営人材育成にわずかでも貢献できればとの想いで、試行錯誤の段階ではありますが私が実際に経営人材育成において活用できているオリジナルのアプローチを紹介します。
本講座で紹介するアプローチは、この講座を作成しながらも実際に経営人材育成におけるコンサルティング案件で私が実践している内容です。こうするとうまくいく、こういう考え方・言い方をしている、ということを実際に現場で確認しながら作成しました。そのため、机上で考えた理論的なアプローチではなく、人材育成コンサルティングとして実際にお客様に価値を感じて頂けるアプローチであり、会社特有の知見を除いて、現時点で私が実践している個の強化にむけた人材育成、特に経営人材育成で活用しているスキルはすべてこの講座に含まれています。
それぞれのアプローチは1時間程度で学習できるようになっていますので、3つの中であなたにとって最も役に立ちそうなアプローチから進めて頂ければと思います。もしどれか迷うようであれば、わたしは「コンピテンシー開発」、「ポテンシャル開発」、そして「やる気の源泉開発」の順で身に着けていったのでこの順番がお勧めです。いずれのアプローチも<基礎編>同様に汎用的に活用できるスキルです。そのため、あなたのもっているスキルや知見を加えることでさらに効果を高めることも可能です。
日本企業における経営人材育成の重要性と緊急性はまだ十分理解されていないと感じています。だからこそ、もしあなたがこの講座に興味をもっていただけたのであれば、この3つのアプローチにあなたのスキルを加え、一日でも早く一人でも多くの経営人材ひとり一人と向き合い個を強化することに役立てて頂ければと思います。